【ホテル業界】客室数を増やすだけではない。これからのホテルは「何」で稼ぐ?-VOL.65
はじめに
ホテル業界では、これまで「ホテルの数」や「客室数をどれだけ増やせるか」が、成長を考えるうえで一つの大きな指標となってきました。
しかし最近、世界のホテル大手の動きを見ると、単純に客室数を増やすだけではなく、「1室あたりの稼ぐ力」や収益性を高めることにも注目が集まっています。
2026年9月にトラベルボイスが掲載した世界ホテル大手5社の2026年上半期決算の分析でも、ホテルチェーンの成長軸が、客室数の拡大だけではなく、1室あたりの収益性を高める方向へ変化していることが紹介されています。
では、「1室あたりの稼ぐ力」を高めるとは、具体的にどういうことでしょうか。
単純に宿泊料金を上げればよい、という話ではありません。
お客様がその価格を見て、
「このホテルなら、この金額を払ってでも泊まりたい」
と思える理由が必要になります。
その理由をつくるのが、ホテルの「価値」なのではないでしょうか。
今回は、ホテルが提供する「価値」と、それを支える「人」に注目しながら、これからのホテルが「何で稼ぐのか」を考えてみます。
「高くする」だけでは、お客様は納得しない
ホテルの価値を高める方法の一つに、リニューアルがあります。
客室やロビーを一新し、明るく開放的な空間にしたり、よりラグジュアリーな雰囲気を演出したりする。
建物や設備が生まれ変われば、ホテルそのものの印象も大きく変わります。
そして、改装にかかった投資を回収するために、宿泊料金を見直すこともあるでしょう。
ただし、ここで一つ考えたいことがあります。
建物がきれいになったから、料金を上げる ― それだけで、お客様は納得するでしょうか。
以前、あるホテルの人事担当者と話をする機会がありました。
そのホテルでは改装によって、空間がより明るく、ラグジュアリーな雰囲気になっていました。
その際に伺ったのが、
「建物は立派になり、料金も上げる。でも、サービスレベルも同じように上げていかなければ、お客様には納得していただけない。そのためには、人員も教育も必要になる」
という話でした。
とてもシンプルな話ですが、ホテルの「価値」を考えるうえで、大切な視点だと感じます。
「1室の価値」は、客室だけで決まらない
同じ客室でも、そこにどのようなサービスが加わるかによって、お客様が感じる価値は変わります。
例えば、
・スタッフの対応が心地よい
・自分のことを覚えていてくれた
・困っているときに、言われる前に声をかけてもらえた
・そのホテルならではの食事を楽しめた
・地域ならではの体験ができた
こうした一つひとつの出来事が、滞在の印象をつくります。
つまり、ホテルの「価値」は、建物や客室の設備だけで完成するものではありません。
空間、サービス、食、体験、そして人。
さまざまな要素が重なって、「このホテルを選ぶ理由」になっていきます。
だからこそ、「1室あたりの稼ぐ力」を考えるときには、単に客室料金や稼働率だけを見るのではなく、
その1室から、どれだけの価値を生み出せるのかという視点も重要なのではないでしょうか。
「このホテルだから泊まりたい」をつくる
ホテルの価格が上がったとき、お客様が最初に感じるのは「高くなった」ということかもしれません。
しかし、その価格に見合う価値が伝われば、単純な価格比較ではなくなります。
例えば、
「このホテルの雰囲気が好き」
「ここでしか食べられない料理がある」
「スタッフのサービスが心地よい」
「このホテルに泊まると、特別な時間を過ごせる」
という理由があれば、「高いけれど、ここに泊まりたい」という選択につながります。
大切なのは、価格を上げることそのものではなく、その価格でも選ばれる理由をつくること。
それがホテルにとっての「価値」なのかもしれません。
「また、あの料理を食べたい」もホテルの価値
その中でも、ホテルが持つ大きな可能性の一つが「食」です。
ホテルのレストランやバーは、宿泊客に食事を提供するだけの場所ではありません。
「あのホテルの料理をもう一度食べたい」
そんな理由で、再びホテルを訪れる人もいます。
料理そのもののおいしさだけではなく、空間やサービス、料理人との会話、料理に込められたストーリーなど、さまざまな要素が一つの「食体験」になります。
そして、その体験が記憶に残れば、「あの味をもう一度」という再訪の理由になる。
宿泊の「ついでに食事をする」のではなく、「あの料理を食べたいから、このホテルへ行く」となれば、食そのものがホテルを選ぶ理由になります。
客室だけではなく、食、バー、スパ、ウェルネス、アクティビティ、地域とのつながりなど、ホテルにはさまざまな「価値」を生み出せる場所があります。
これからのホテルには、そうした「宿泊以外の価値」をどう育てていくかも問われるのではないでしょうか。
そして、その価値をつくるのは「人」
では、その価値を実際につくるのは誰でしょうか。
もちろん、建物や設備、料理、ブランドなど、それぞれに大きな役割があります。
しかし、お客様がホテルで過ごす時間を最後に形にするのは、そこで働く人です。
新しくなった空間にふさわしいサービスを提供する。
料理の魅力をお客様に伝える。
お客様の様子を見ながら、マニュアルにはない対応をする。
また来たいと思っていただけるような時間をつくる。
こうした仕事には、人の経験や感性、相手を思いやる力が欠かせません。
だからこそ、ホテルの価値を高めるための投資は、建物や設備だけではありません。
人員を確保すること。
人を育てること。
そして、働く人が力を発揮できる環境をつくること。
これもまた、ホテルの価値を高めるための重要な投資なのではないでしょうか。
「稼ぐ力」と「人材」はつながっている
ホテルの収益を考えるとき、客室単価や稼働率、販売戦略などに目が向きがちです。
もちろん、これらはホテル経営に欠かせません。
しかし、最終的にお客様が「その価格を払ってもいい」と感じるのは、数字だけではありません。
「このホテルだから泊まりたい」と思える何かがあるからです。
その「何か」をつくるためには、さまざまな人の力が必要になります。
料理人が料理をつくり、サービススタッフがその料理を届け、宿泊スタッフがお客様を迎え、マーケティング担当者がホテルの魅力を伝える。それぞれの仕事がつながり、一つのホテル体験になります。
つまり、
ホテルの「稼ぐ力」を高めることと、そこで働く人の仕事は、決して別々のものではありません。
一人ひとりの仕事がホテルの価値をつくり、その価値がお客様の満足につながり、再訪や口コミ、ブランドへの信頼につながっていく。
その積み重ねが、ホテルの「稼ぐ力」を支えていくのではないでしょうか。
これからのホテルは「何」で選ばれるのか
これからのホテル業界では、客室数を増やすことだけではなく、「このホテルだから選ばれる理由」をどれだけつくれるかが、ますます重要になっていくのかもしれません。
客室を増やす。
料金を上げる。
設備を新しくする。
それだけではなく、
「そのホテルで、どんな時間を過ごしてもらうのか」
「どんな体験を記憶に残してもらうのか」
「また訪れたいと思ってもらうには、何が必要なのか」
まで考える。
その先に、ホテルの新しい「稼ぐ力」があるのではないでしょうか。
そして、その価値を生み出すのは、建物だけでも、設備だけでも、システムだけでもありません。
そこにいる人、その人たちが提供するサービスこそが、ホテルの価値を大きく左右します。
まとめ
ホテルの成長というと、「ホテルを増やす」「客室数を増やす」というイメージがあるかもしれません。
しかし、これからは「何室あるか」だけではなく、「1室からどれだけの価値を生み出せるか」という視点も重要になってくるでしょう。
そして、その価値は客室そのものだけで決まるものではありません。
食、サービス、空間、体験、地域とのつながり。
そこに「人」が加わって、ホテルならではの価値が生まれます。
建物を新しくしたなら、それに見合うサービスを。
料金を上げるなら、それに納得していただける体験を。
「また泊まりたい」と思っていただくなら、その理由を。
これからのホテルに求められるのは、単に「稼ぐこと」ではなく、「お客様がお金を払ってでも体験したいと思える価値を、どうつくるか」なのかもしれません。
そして、その価値をつくる仕事には、必ず人がいます。
ホテルの「稼ぐ力」を考えることは、そこで働く人の仕事の価値を考えることでもある。
そんな視点も、これからのホテル業界を見ていくうえで大切なのではないでしょうか。
参考記事
トラベルボイス
「世界ホテル大手の成長軸は『客室数』から『1室あたりの稼ぐ力』へ、中東リスクを吸収した2026年上半期決算を分析【コラム】」
2026年9月3日掲載
記事はこちら
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